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2009年5月2日土曜日

「物理法則を自力で発見」した人工知能


Image credit: Science、サイトトップの画像はフーコーの振り子。Wikimedia Commonsより

物理学者が何百年もかけて出した答えに、コンピューター・プログラムがたった1日でたどり着いた。揺れる振り子の動きから、運動の法則を導き出したのだ。

コーネル大学の研究チームが開発したこのプログラムは、物理学や幾何学の知識を一切使わずに、自然法則を導き出すことに成功した。

この研究は、膨大な量のデータを扱う科学界にブレークスルーをもたらすものとして期待が寄せられている。

科学は今や、ペタバイト級[1ペタバイトは100万ギガバイト]のデータを扱う時代を迎えている。あまりに膨大で複雑なため、人間の頭脳では解析で きないデータセットについて、コンピューターを使ってそこから規則性を見出す試みが行なわれている(『ワイアード』誌の2008年7月の記事『The End of Science』がこの話題を取り上げている)。

生データから規則性を見出すことは、長年、機械の知能ではなく人間の直感がつかさどる領域と考えられてきた。しかし今後は、人間の頭脳では分析しき れない複雑なデータセットの解読に、人間の科学者とコンピューター・プログラムが肩を並べて取り組む時代がやってくるかもしれない。

今回のプログラムは、コーネル大学准教授(機械および航空宇宙工学)のHod Lipson氏と、同大学院生でコンピューターを利用した生命工学を研究するMichael Schmidt氏が開発したもの。『Science』誌の4月3日号に発表された両氏の研究成果は、人工知能を使って数学の定理や科学の法則を見つけ出すというこれまで実現してこなかった試みにブレークスルーをもたらす可能性がある。[Science4月3日号には、仮説をたて、実験で検証する人工知能『Adam』についても掲載されている]

Lipson氏とSchmidt氏が開発したプログラムは、与えられたデータセット内の互いに関連しあった要素を特定し、その関係性を記述した等式を生成するというものだ。プログラムに与えるデータセットには、バネにつながれた振動子や単振り子、二重振り子といった単純な力学系の運動を記述したものを用いた。いずれも、学生に物理の法則を教える際によく用いられる力学系だ。

データセットを与えられたプログラムは、まず基本的な演算処理――足し算、引き算、掛け算、割り算と、いくつかの代数演算子――をほぼランダムに組み合わせることから開始した。

最初のうち、プログラムが生成する等式はデータをうまく説明できていなかったが、一部の等式は他に比べてわずかに誤りが少なかった。プログラムは遺伝的アルゴリズムを使い、最も誤りの少ない等式を修正し、それらを再びテストして、中でも優れたものを選び出し、再び同じプロセスを繰り返して、最終的にその力学系を記述する一連の等式を導き出した。その結果、いくつかの等式は非常に見覚えのあるものになった――運動量保存の法則と、ニュートンによる運動の第2法則を表わしたものだ。

「これは有力な手法だ。あらゆる種類の力学系に応用できる可能性がある」と、ミシガン大学のコンピューター科学者Martha Pollack氏は言う。応用可能な分野としてPollack氏は、環境系、気候パターン、集団遺伝学、宇宙論、海洋学などを挙げた。「自然科学のほとんどすべての分野に、この手法を活用できる構造が存在する」

研究チームは、すでにこのプログラムを人間の生理学的状態や代謝産物量の記録に応用している。代謝産物(メタボライト)は、生体の重要機能に関与する細胞内の小分子の総称だが、分子ごとの同定はまだほとんど進んでおらず、その意味で、法則が見出されていないデータの好例といえる。

「法則とは、システムの規則性をとらえた数式のことだ」とPollack氏は話す。「しかし科学者は、それらの規則性に解釈を与えなければならな い」。たとえば、なぜ動物の個体数は降水量の変化に影響を受けるのか、個体数を守るにはどうすればいいのかといったことを説明する必要があるというのだ。

認知科学者のMichael Atherton氏は、人工知能がすぐにも人間の芸術的知見や科学的知見に取って代わることはないとの見通しを先ごろ表明した人物だが、同氏はコーネル大のプログラムについて次のような感想を述べた。

「素晴らしいツールになるかもしれない。直感では得られないような観点を見出すのに役立つという意味で、視覚化ソフトウェアに通じるものがある」

ただし、「創造性や専門知識、重要性の認識などは、依然として人間の判断にゆだねられている。複雑な座標系をいかに体系化するかという、最大の問題が残されていることに変わりはない」とAtherton氏は語った。

未解読のインダス文字を、人工知能で解析


J.M. Kenoyer/Harappa.com

多くの考古学者の挑戦を退けてきた古代文字が、人工知能にその秘密の一部を見破られた。

4000年前のインダス文明で使われていた記号をコンピューターで分析したところ、これらの記号が話し言葉を表している可能性があることがわかったのだ。

「含まれている文法構造は、多くの言語で見られるものと共通しているようだ」と、ワシントン大学のコンピューター科学者、Rajesh Rao博士は語っている。

インダス文字は、紀元前2600年から紀元前1900年に今のパキスタン東部からインド北部にかけて使われていた文字で、エジプト文明やメソポタミ ア文明と同じくらい洗練された文明に属していた。しかし、残されている文字は他の文明と比べて非常に少ない。考古学者がこれまでに見つけ出したのはおよそ 1500種類で、陶器や平板や印章のかけらに彫られていたものだ。最も長いものでもわずか27文字しかない。[インダス文字は、テキストが印章のような短文がほとんどであることと、ロゼッタ・ストーンのような2言語以上の併記がないことから、解読が難航している]

1877年、英国の考古学者だったAlexander Cunningham博士は、インダス文字が中央アジアから東南アジアにかけて使われている現代のブラーフミー系文字の祖先だとする仮説を立てた。しかし、この説に賛同する研究者は他にいなかった。その後、多くの人々が先を争ってインダス文字の解読に挑んだが、結局は失敗に終わり、その状況が現在まで続いている。

2004年には、言語学者のSteve Farmer博士が、現存するインダス文字は政治的、宗教的な象徴を表すものにすぎないと主張する論文を発表した。この考え方には賛否両論がわき起こったが、まったく支持されていないわけではない

一方、今回の研究を行なったRao博士は機械学習が 専門だが、高校時代にインダス文字について書かれた文献を読んだことがあり、インドでのサバティカル(長期休暇)中に、自分の専門知識をインダス文字の研 究に生かしてみようと考えた。そして、文字自体の解読とまではいかなくても、文字なのか象徴なのかという論争に終止符を打つ可能性がある研究成果を 『Science』に発表した。

「機械学習の主要なテーマの1つは、限られた量のデータからどのようにして規則を一般化するのかということだ。たとえデータを読み取れなかったとしても、そのパターンを見つけ出して、そこにある文法構造を知ることはできる」とRao博士は言う。

Rao博士の研究チームは、マルコフ・モデルと呼ばれる手法で計算を実行するパターン分析ソフトウェアを使用した。これは、システム・ダイナミクスにおいて使用される演算ツールだ。

Rao博士らはこのプログラムに、まず4種類の話し言葉(古代シュメール語、サンスクリット語、古代タミル語、および現代英語)のサンプルを入力し た。次に4種類の、話し言葉ではない伝達システム(人間のDNA、フォートラン、バクテリアのタンパク質配列、および人工言語)のサンプルを入力した。

プログラムは、各言語に存在する規則性のレベルを計算した。話し言葉ではない言語は、高い規則性を持つもの(その記号と構造に一定の法則性がある)か、まったく秩序がないものかのどちらかだった。一方、話し言葉はその中間だった。

次に、インダス文字のサンプルをこのプログラムに入力したところ、記号配列のパターンに基づいた文法的規則が検出された。これらは、話し言葉と同程度の適度な規則性だという。

インダス文字の権威であるヘルシンキ大学のAsko Parpola氏は、この研究を有益だと述べたが、文字の意味的理解をこれまでより進めるものではないと述べた。サンプルが少なすぎて、仮説を検証することができないという障害は変わらないという。

[インダス文字の解読については、1960年代のソ連の研究者ユーリ・クノロゾフらがコンピューターを用って解析。修飾語や名詞、形容詞などのある程度の文法的特徴を明らかにしたとされている。Parpola氏による文字の意味解読などを紹介しているサイトはこちら]