2012年7月10日火曜日

日本、南シナ海の領有権問題に積極介入


 日本政府は今、海上貿易を守るために東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国との軍事的連携を深め、中国政府に立ち向かおうとしている。
 フィリピンとベトナムは南シナ海での中国の強硬姿勢に対し嵐のような抗議をしてきたが、懸念を表明しているのは両国だけではない。あまり目立たないが、日本も重要な役割を果たしてきた。パラセル諸島やスプラトリー諸島に直接的な領有権はないものの、世界第3位の経済大国である日本は緊張の拡大を防ぐことを非常に重視しており、そのために積極的に動き始めている。
Associated Press
フィリピンを訪問した海上自衛隊の艦船
 カンボジアの首都プノンペンで今週開かれれるASEAN地域フォーラムで、玄葉光一郎外相は最近の情勢に関して強い懸念を示し、領海権の主張を明確にして外交的解決を急ぐことを関係各国に要請する意向である。こうした介入はベトナムのような東南アジアの国々には歓迎されるだろうが、日中間の摩擦をほぼ間違いなく激化させるだろう。
 日本は中国との間に領土問題を抱えているが、それとは別の、直接的な領有権がない領土問題で日本政府が中国を敵に回すことには大きな意味がある。以前から南シナ海の情勢を注視してきた日本政府が、より積極的なアプローチの必要性を感じるようになったのは2008年に緊張が高まり始めてからのことだった。
 日本はそこに2つの大きな懸念を抱えている。1つ目は時間の経過とともに低レベルの緊張がより大規模な紛争へと発展し、海上輸送を妨げるのではないかというもの。南シナ海のシーレーン(海上輸送路)は日本製品を重要な市場である東南アジアや欧州へ輸出するのに使われるほか、輸入原油の90%が通過するため、経済安全保障上の問題となる。
 2つ目の懸念は、中国が恫喝によって南シナ海の支配権を確立すると、日本との領土問題がある東シナ海でも同じ戦術を使ってくる可能性があるというものだ。領有権とその領海における「歴史的権利」を主張するための疑わしい理由を、中国に丸めこまれたり強要されたりした結果、東南アジア諸国が受け入れるようなことになると、1982年に採択された国連海洋法条約のような既存の法的規範の実効性が損なわれてしまうだろう。中国が同じ理由を主張してきた場合、東シナ海の尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権をめぐる日本側の主張の説得力にも悪影響を及ぼしかねない。
 そればかりか中国は、軍事的圧力に関して、1つの地域で成果を上げたのだから、他の地域でも効果があるはずという計算をするかもしれない。こうした中国の瀬戸際政策により、日中関係が軍事的、外交的な危機に瀕することもあり得るのだ。
 こうした事情もあって、日本は南シナ海危機への対応で主導的役割を果たすことを決意し、その一手段として多国間のフォーラムを利用している。日本政府はASEANのサミットで近海の「平和と安定」を呼びかけてきた。さらに重要なことに、日本はその海上保安庁と東南アジアのそれに類する組織との協力関係を強化することを約束した。南シナ海で領土問題を抱える国々は一般的に、その領有権を誇示するのに海軍の艦艇ではなく、沿岸警備隊を使ってきたので、この協力には重要な意味がある。
 日本は最近、年次ASEAN海洋フォーラムに関して、オーストラリア、インド、米国といった対話国を含む拡大会合も提案した。日本は、既存の国際法の枠組みを強化し、南シナ海の領有権問題を解決するメカニズムを構築する上でこのフォーラムを有効な場と捉えている。拡大会合が実現すれば、会議場における自由民主主義の存在感も高まることになる。ASEANでは、中国を敵に回すことを恐れて慎重な態度を取る加盟国があるという問題点も指摘されている。
 日本はASEANのみの議論や交渉に完全に満足しているわけではない。ASEANの努力に対しては強い支持を表明し続けている日本だが、その危機対応能力のなさに苛立ちも募らせている。日本としてはASEANが一致団結することを望み、加盟国が圧倒的に優位な立場にある中国と個別に取引することに反対している。
 そこで日本政府は、この地域のいくつかの国々との2国間協力を模索していくことになる。日本が1番積極的に支援してきたのが、軍事力に乏しいことでASEANという環で最弱部分と不安視されているフィリピンだ。日本は現在、フィリピンの沿岸警備隊の防衛能力の向上に力を入れ、その海上監視能力を強化するために巡視船10隻の供与にも基本合意している。
 両国は軍事的な連携も強化し始めている。定期的な対話はすでに始まっており、今年、海上自衛隊の艦船はフィリピンを訪問し、合同演習に参加したほか人道支援も行った。日本はフィリピンの他にも、ベトナムと防衛協力関係を深めることに合意しており、シンガポール、マレーシア、インドネシアとの交渉にも参加している。
 日本以外の大国が南シナ海の領土問題に干渉してくることに中国が反対するのは自由だが、日本による干渉は中国自身の瀬戸際政策が招いたものである。今週、プノンペンで開催されるASEAN地域フォーラムの結果、対立の火花が散るようなことになったとしても、東南アジア諸国にとって有利な結論が出るように働きかけるという日本政府の決意は固いようだ。

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