2009年2月16日月曜日

新生児もビートがわかる:「音楽」は人間独自の能力?

赤ん坊は脚をばたばたさせ、泣き声を上げながら、この世に誕生する。そのときすでに、ビートを感じる能力がある。

赤ん坊は予想外の乱れたリズムを聞くと、大人と同じパターンの脳の活動を見せる。これは人間と音楽の関係の本質を知る手がかりになる可能性がある。

「われわれは音楽の起源を解明することに興味がある」と話すのは、アムステルダム大学の『音楽認知グループ』を率いるHenkjan Honing准教授だ。「音楽は言語の副産物にすぎないのだろうか?」

ビートを追う能力はビート誘導と呼ばれる。霊長類の中でも人間に近いチンパンジーやボノボでさえ、この能力を持たない。これは人間のみが持つ特性で、音楽の認知的な構成要素と考えられている。

この能力が先天的なものか、あるいは、両親の腕の中で揺られながら子守歌を聴く、生まれてからの数カ月で身につけるものか、研究者たちは議論を続けてきた。これは音楽の本質にも関わる問題だ。音楽とは人間の先天的な能力なのか、あるいは、Steven Pinker氏などの神経科学者が言うように、言語の派生物、「耳で味わうチーズケーキ」なのだろうか?[Pinker氏は「音楽はチーズケーキのようなもので、進化の副産物であり,それ自体に適応性はない」という説を唱えた]

もしビート誘導が生まれつきの能力なら、音楽はたぶんその報酬だ。

「われわれは音楽を聴くと、それに合わせて手をたたく。音楽が速くなったり遅くなったりすれば、それに合わせて踊ることができる」と、Honing准教授は言う。同氏は26日(米国時間)付けで『米国科学アカデミー紀要』の電子版に発表された論文の主執筆者だ。「この能力が後天的なものでなく、生まれつきのものであるという証拠が初めて得られた」

Honing准教授の研究チームは、生後2〜3日の赤ん坊14人に、脳の全般的な活動を測定する装置を取り付け、ハイハットとスネアドラム、バスドラムで構成されるロックのビートを聴かせた。

それぞれのビートの直後に、赤ん坊の脳の活動は増加した。これを何度か繰り返した後、今度はビートのサイクル4回ごとにバスドラムの音を1つ抜いた(赤ん坊たちが実際に聴いた音はこちら)。すると、赤ん坊たちの脳はミスマッチ陰性電位と呼ばれる瞬間的な乱れを示した。大人の場合、予期した刺激がなかったときに見られる反応だ。

「赤ん坊たちの脳は何かが起きるのを予期していたが、実際は起こらなかったというわけだ」と、Honing准教授は説明する。

Honing准教授によると、ビート誘導は、たぶん会話中にタイミングを計る助けにもなるが、その起源は言語と無関係な可能性が高いという。

「そこで規則性を見つけるのは難しい。パルス(律動)はほとんどの音楽で明確だが、言葉にはほとんど見られない」

人間が生物学的に受け継いでいる基本的な要素の中に、音楽を処理する能力があるのなら、音楽の能力はたぶん、進化においてまだ見つかっていない利点をもたらすものなのだろう、と、Honing准教授たちは書いている。

「研究を1つ上の段階に進めて、赤ん坊がビート誘導だけでなく[より規則性の高い]拍子(meter)にも敏感かどうかをぜひ確かめてみたい」と、Honing准教授は言う。「4分の2拍子と4分の4拍子を区別できるか、マーチとワルツの違いが分かるかを知りたい」

量子コンピューティングを脅かす「量子もつれの突然死」

従来の物理の法則に反して、2つの量子状態が互いに相関を持つ不可思議な「量子もつれ」[「量子絡み合い」「量子エンタングルメント」などとも呼ばれる]の現象。これを応用した先進技術の開発に、とある不安材料が指摘されている。その不安材料とは、同じく従来の物理の法則に反するもう1つの不可思議な現象、「量子もつれの突然死」だ。

量子コンピューティング(日本語版記事)、量子暗号量子テレポーテーション(日本語版記事)――これらはすべて、量子もつれ現象を必要とする。問題は、それをどれくらいの時間無事に保てるか、という点だ」と、ロチェスター大学の物理学者Joseph Eberly氏は話す。

量子もつれでは、量子単位(通常は電子)が相互依存的な状態で存在している。一方が「上方向に」スピンしていれば、もう一方は下方向にスピンしている。この関係は距離に関係なく持続し、バイナリ情報をほぼ瞬時に送信することを可能にする。

(この説明でピンと来なければ、下の注を参照してほしい。)

だが、量子もつれは絶対的な現象ではない。逆方向に違う速度で時を刻み始める2つの時計のように、相関は低下しうる。この低下を防ぐことは不可能に 近く、電磁放射からランダムに飛来する宇宙線、近所の交通騒音まで、あらゆるものによって引き起こされるエネルギーの変化が原因となって起こる。

物理学者は、量子もつれの消滅を予測して理論的に回復させることができるが、それは半減期の法則(一定時間で量が半減するが、けっしてゼロにはならない)に従っている場合のみ可能だ、とEberly氏は言う。

一方、Eberly氏が最初に予測し、2007年に確認された「量子もつれの突然死」は、突如として起こり、半減期の法則に反してゼロの状態になる現象だ。

Eberly氏は、『Science』誌1月30日号に発表した論文の中で、突然死についてこのように述べている。

「突然死が起きる時間を予測するための法則はまだない。コンピューター科学者はこれまで、量子もつれの状態をほんのわずかでも回復させる方法の実証に頼ってきた。だが、突然死ではそれが役に立たない。死は死だ」

さらに悪いことに、量子もつれの状態を回復しようとする行為そのものが突然死を引き起こす可能性もあり、一種のジレンマだとEberly氏は述べている。

この現象への理解が深まるまで、量子技術は実現不可能かもしれない。だがEberly氏は、量子工学の研究者がいずれこの問題を克服するとみている。

特定の条件下では、逆の効果、すなわち量子もつれの突然発生が起きる可能性もある、とEberly氏は言う。また、たとえ抑止することはできなくて も、突然死がどれほどの速さで起きるかを突き止め、その時間内に量子計算を終了させるシステムを開発すれば、問題は解決できる。

「突然死が起こりうる最短の時間を知る者はいない。それが1ナノ秒なら、それより速く動作するシステムを作ればいい。物理学者というのは、自分が追い越せないほどの速さが存在することを認めたがらないものだ」とEberly氏は語った。

注:量子もつれの基本的なところが理解できないというみなさん、心配は無用だ。Eberly氏は次のように述べている。

「量子もつれに関するワークショップから戻ったばかりだが、そこでいちばんよく耳にした告白は、『自分は量子もつれのことを完全には理解していな い』というものだった。主催者や参加者でさえその程度だ。量子もつれが重要なことや、その特性は彼らも知っている。だが大半の物理学者にとって、自分は量 子もつれに精通している、あるいは理解していると主張するのは無理な話だ」

バクテリアの「知性」を研究する:情報伝達の仕組みを解明

バクテリアは人間にとって悪いものではない――これは、プリンストン大学の分子生物学者Bonnie Bassler氏が行なった、バクテリアの知性に関する驚くほど刺激的な講演に込められたメッセージだ。

バクテリアは人間が食物を消化するのを助けるもので、人間の生存には不可欠だ。だがそれだけではなく、バクテリアは全体が一つの動物であるかのように行動する社会的存在なのだと、Bassler氏は述べた。

同氏の講演は、2月上旬に開催された『TED会議』(TEDはテクノロジー、エンターテインメント、デザインの略)で行なわれた。

バクテリアは「クオラム・センシング」と呼ばれる機構を利用して情報を伝達し、病原因子の増殖などを含むあらゆる活動を調整している。この仕組みは、人間が病気と闘う上で非常に大きな意味を持つ。

[クオラム・センシングと は、フェロモン様の物質(クオルモン)のやりとりによって、細菌が自分と同種の細胞が周辺にどれくらいの密度で存在しているかの情報を感知し、それに基づ いて物質の産生をコントロールする機構。例えば、緑膿菌やセラチアなどの病原細菌は、感染した宿主が健康なときには病原因子を作らず、免疫の低下などに よって宿主の抵抗性が低下して菌数が増加したときに、クオラムセンシングによってさまざまな病原因子を産生するようになる]

バクテリアが情報をやりとりしている例としては、発光バクテリアの一種Vibrio fischeriがある。このバクテリアは、数多く集まると発光するが、数が少ないと発光しない。発光するのは、十分な数のVibrio fischeriが集まったときに、化学物質がやり取りされるからだ。

なお、ある種のイカは、このバクテリアの発光を利用している。イカは食物を探す際にこの光を隠れ蓑にしているのだ。[イカの体表面には発光バクテリアが よく生息しており、刺身用のイカを塩水に浸して一昼夜放置すると、培養されて表面に青い光が確認できる場合がある。マツカサウオなど一部の発光魚には、発 光バクテリアを増殖させるための発光器官を持つものがおり、獲物の捕獲、またはその逆で逃げる場合のめくらまし、誘導灯として用いていると考えられてい る]

情報の伝達手段は、バクテリアの種ごとに若干異なる。だが、Bassler氏と学生たちの研究チームは、Vibrio fischeriなどのバクテリアが情報のやり取りに利用する化学物質を特定した。

バクテリアが人間を病気にする毒性化合物を生成するために情報をやり取りする必要があるならば、こうした情報のやり取りを阻止する方法を見つけることはおそらく可能だろう。

Bassler氏はさらに、バクテリアのコロニーが[クオラム・センシングを通して]多細胞生物であるかのような行動をしていることに触れ、これを 通して、多細胞生物が生きる上でのルールを解明できる可能性があると述べた。バクテリアがどのように多細胞的に活動しているかのルールを解明することがで きれば、この知識を、人間の行動や病気の解明にも応用できる可能性もあるのだ。

市場は合理的か:「株トレーダーは男性ホルモンで動く」研究

株のトレーダーと、体内の男性ホルモンの相関関係を研究した一連の成果が発表された。

この研究を率いているのは、英国ケンブリッジ大学の神経科学者John Coates氏。ウォール街でトレーディング・デスクのオペレーターを務めたことがある人物でもある。

最初の研究は、現在の金融危機がまだ初期段階だった2008年4月に行なわれた。Coates氏の研究チームはまず、トレーディングがホルモンの大きな不可逆的変動を生み出すことを示した。

取引に成功するとテストステロン[男性ホルモン作用を持つ物質の総称であるアンドロゲングループの1つ]のレベルが上がり、過剰なリスク・テイキン グ[リスクをとる行動]を後押しした。一方、取引に失敗したときはコルチゾールのレベルが上がった。コルチゾールはストレスホルモンで、過度の慎重さを招 くことがある。

Coates氏は、市場の通常の値動きが暴騰や暴落へと転じる際に、こうした生理学的な傾向がからんでいる可能性があると考えている。

4月の調査は、数日という期間でテストステロンと取引の成功を結びつけたものだったが、新しい調査はもっと長期的な効果に目を向けている。

1月12日(米国時間)付けの『米国科学アカデミー紀要』(PNAS)に掲載された最新の調査結果は、ロンドンのトレーダー44人を対象にしている。

優秀な成績を上げているトレーダーの多くに、人差し指よりも薬指が長い傾向があった。この指の長さの比率は、胎児期にアンドロゲンにどれだけ多く曝 されたかということと関係している。他方で、胎児期に曝されたアンドロゲンが多いと、成人になってからテストステロンのレベルが上がると考えられている。

人差し指と薬指の長さの比率との相関については、性的嗜好や運動の素質から積極性や攻撃性までのさまざまな特徴がこれまでに指摘されている。こうし た研究の中には、再現性がなく、現代版の骨相学だと批判されているものもある。しかしこの比率が、胎児期に曝されるアンドロゲンによって変わることについ て、専門家の意見は一致している。

そして、このような胎児期の「アンドロゲン・シャワー」が、成人になってからのテストステロンのレベルを決定づけ、ホルモンを調節する代謝経路を作 ると考えられている。わずか数分のうちに巨万の富が築かれ、また失われるトレーディング・ルームも、こうしたホルモンの流れの影響を受けている可能性があ るというわけだ。(ただし、Coates氏の論文には断り書きがついている。指の長さの比率をテストステロンの通常レベルを完全に表すものと見ることはで きず、Coates氏が調査した44人のトレーダー以外でも同じ結果が再現されるかどうかを見る必要があるというものだ)

研究論文の筆頭執筆者であるCoates氏はこう語る。「トレーディングは身体活動だ。トレーダーは視覚運動的に情報を読み取り、株価に矛盾が見られたら即座に反応しなければならない。こういった活動には、必要な身体的特性というものがある」

「市場がどのように選択を行なうのか、市場が何によって選択するかにわれわれは注目している。どうも市場は、合理的期待ではなく生物学的な特徴に よって選択しているようだ」と、Coates氏は話す。そうだとすると、市場を「オイルをたっぷりさした合理的な機械」というイメージで見ている私たちの 見方は的外れだということになる。

ペースの速い取引所においては、男性ホルモンの過剰が成功に結びつきやすい。一方で、世界経済の舵取りを、ホルモンのバランスが崩れた意思決定者が 行なっているということにもなる。現在の金融の世界は、とにかく積極的でまず行動という人物を好む傾向があるが、このことが悪影響を及ぼしている可能性も あるのだ。

Coates氏は、現在の経済危機を生物学では説明できないことを強調している。今回の経済危機の根底には、とんでもない役員報酬や、間違った経済政策や、規制の失敗がある。

しかし、ここまでの危機の糸口となったのは――そしてその危機を生み出した間違いと悪事とを、大衆が受容した根底にあるのは、自由な市場と経済活動 の根本的な合理性に対する、幅広い信念の存在だった。市場と経済活動が合理的なものだという仮説は、いま一度検討してみる必要があるかもしれない。

「市場は効率的であるという理論が、この15年間、多くの政策の根底にあった。市場は、合理的な期待を掲げるトレーダーや投資家を選択するものとさ れている」と、Coates氏は言う。「われわれが生物学に注目しているのは、そのようなパラダイムを基盤としている経済は砂上の楼閣だと考えるからだ」

米ロックフェラー大学のBruce McEwen教授(神経内分泌学)は、Coates氏の研究結果について、性ホルモンに曝されることの効果に関する動物での研究を補強するものだと話す。

「(性ホルモンによって)神経系に傾向が与えられ、その結果、行動はある方向へと発達する」と、McEwen教授は言う。「このケースでは、ああいったスピードの速い株取引での成功につながるスキルが発達した」

一方で米ハーバード大学のAnna Dreber氏(経済学)は、人差し指と薬指の長さの比率はテストステロンの通常レベルの指標として有望だが、厳密なものではないと述べる。Dreber氏とCoren Apicella氏(経 済人類学)は、大学生を対象にリスク・テイキングの調査を実施したが、指の長さの比率とリスクをとる行動との間に相関を見いだすことができなかった。ただ しApicella氏は、絶え間ない警戒と素早い対応が求められるトレーディングの場だと、相関関係が強く出るかもしれないと述べている。

「最近生まれた行動経済学は、人間の特性についてより現実的な見方をしている」とDreber氏は語る。「それらの理論的根拠を理解することは次の段階であり、Coates氏のような研究者はそういう研究を行なっている」

「市場は自然状態だと思われているかもしれないが、不変の法則があるわけではない。市場は銀行の規制や報酬体系などによって決定されており、これらを変えれば、別のタイプのトレーダーが選択されるだろう」とCoates氏は語る。

Coates氏は、同氏が研究対象にした、1分1秒を争うような速いペースのトレーディングの性格を、バンキングやアセットマネージメントの領域に 入れないことを推奨している。「[規制が変われば、]速いペースのトレーディングを好まず、完全な情報や知恵や慎重さが必要なトレーディングを行なう人が 選択されていくだろう]

親の収入が幼児の言語能力に影響、米大研究

【2月13日 AFP】幼少期に親とのジェスチャーによるコミュニケーションが豊富だった子どもは、語い習得に優れ、就学後の成績も良いと結論づけた米シカゴ大学(University of Chicago)の研究結果が13日、米科学誌「サイエンス(Science)」に発表された。

 シカゴ大の研究者らは、市内に住む1歳2か月の幼児を持つ社会的背景の異なる50世帯を選び、家庭での幼児の通常行動を1時間半のビデオ映像に記録し、幼児が4歳半に成長した際に語い習得度を調べた。

 その結果、幼児期のジェスチャー量は親のジェスチャーの多さに比例することが分かった。さらに、研究を行った心理学者メレディス・ロウ(Meredith Rowe)氏は、親の社会経済的な地位の差異が幼児期の言語習得に大きく影響するという。

 研究によると、1歳2か月の段階で、高収入で教育水準も高い家庭の子どもは平均24種類の意味をジェスチャーで使い分けていたが、低収入家庭の場合、 ジェスチャーで表せる意味は13種類だけだった。この傾向は子どもたちの就学後、語いの習得にも見られるという。(c)AFP

ディープキスは性的興奮を誘引、脳活性化の効果も 米研究発表

【2月14日 AFP】ディープキスは性的興奮を誘引する化学物質を分泌する効果がある。米ニュージャージー(New Jersey)州ラトガース大学(Rutgers University)の人類学者ヘレン・フィッシャー(Helen Fisher)氏が、全米科学振興協会(American Association for the Advancement of ScienceAAAS)に先立つ会見で記者団に語った。

■男性がディープキスを好む理由

 フィッシャー氏によると、男性は口を大きく開いたディープキスを好むが、これは、無意識のうちに性的興奮を誘発するテストステロンを女性に送り込もうとしているのだと考えることができるという。

 また、男性はにおいと味に対して鈍感であるが、舌を絡ませたディープキスを好むという男性の習性は、この弱点を補うために役立っており、「女性の生殖能 力の度合いを確かめるため、女性ホルモンの一種エストロゲンの分泌サイクルを確認しようとしているのかもしれない」と述べた。

■脳の活性化にも

 フィッシャー氏は、磁気共鳴画像装置(MRI)で脳の活動を調べたところ、キスが脳の非常に大きな部分を活性化させることが分かったが、キスよりも恋愛感情の方がさらに刺激が強いという。

 研究によると、恋に落ちたばかりの人は、欲求や集中力、やる気、目的志向の行動などに関係のある化学物質、ドーパミンを製造する脳内の報償系が活発に活動していた。(c)AFP/Mira Oberman

米軍兵士の肥満急増、03年の2倍に

【2月11日 AFP】米国防総省の報告書によると、2003年のイラク戦争開戦以降、米軍兵士の肥満が2倍に増加した。兵士の肥満増加は、米国平均の傾向を反映している一方、海外派遣によるストレスの影響も大きいという。

 米国防総省が1月に発表した報告書によると、「過去10年間にわたって、現役兵士の中で肥満で治療を受けた者の割合が増加を続けている。また、03年以降、増加幅も拡大している」という。

 肥満と診断された兵士の数は、1998年には兵士全体の1.6%にあたる2万5652人だったが、2003年には3万4333人(2.1%)に増加し、08年には03年の倍となる6万8786人(4.4%)に増加した。

 05年に行われた米軍兵士への調査結果によると、「体重増加の原因として最も多かったのは、ストレスと海外派遣からの帰還」だった。

 米軍の発表は、イラクやアフガニスタンへの派遣の長期化が、軍全体に疲弊をもたらしている兆候を示している。

 体重の増加以外にも、米軍の自殺者数も増加しており、07年の115人と比較し、08年は過去最多の143人となった。

 一方、米軍兵士の体重増加傾向は、米国平均の傾向を反映している。米国では、18-34歳の国民の20%が肥満とみられている。

 同報告書は、米国平均と同様、米軍内の肥満増加の最大の原因が、ファストフードの食生活と、体をほとんど使わないビデオゲームやテレビ、映画などといっ た娯楽にあると指摘。「肥満は軍作戦の効率を低下させる。そして、急性・慢性問わず健康に悪影響を及ぼす」ため、深刻な懸念材料だと警鐘を鳴らし た。(c)AFP

ロシア、08年の武器輸出実績は83.5億ドル 旧ソ連崩壊後最高

【2月11日 AFP】ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev) 大統領は10日、2008年の武器輸出実績は前年比約10%増の83億5000万ドル(約7500億円)相当に達し、旧ソ連崩壊後では最高を記録したと述べた。

 ロシアの08年の武器輸出は07年の実績より8億ドル(約720億円)増えた。しかし、ロシア政府のウェブサイトによるとメドベージェフ大統領は「世界 が経済危機にあるなか今年の状況は厳しいが、輸出先の多様化や開拓の余地のある市場への進出を目指さなければならない」と述べ、高官らに武器輸出のさらな る強化を指示した。

 ロシアの独立系シンクタンク「Centre for Analysis of Strategies and Technologies」のルスラン・プーコフ(Ruslan Pukhov)氏は、原油価格の高騰に支えられた好調なロシア経済に加え、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)首相が従来から関係の深いインド、アルジェリア、ベネズエラを訪問し積極的にロシア製武器を売り込んだことも奏功したとみる。

 算出方法によって多少異なるが、ロシアは現在、米国、英国、フランスに次ぐ世界第3-4位の武器輸出大国だという。(c)AFP

日本の「失われた10年」、米国が得るべき教訓

【2月15日 AFP】景気は後退。金融システムはぼろぼろ。政府は巨額の財政支出で危機からの脱出を模索。こんな状況に覚えがあるかと聞かれれば「イエス」と答える国がある。日本だ。

 米政府は景気後退の悪化と長期化を防ぐため数千億ドル規模の景気対策を準備しているが、日本経済の専門家は、日本の経験から、財政支出拡大によって「痛み」が和らぐ可能性はあると指摘する。

 豪マッコーリー証券(Macquarie Securities)東京支店のチーフエコノミスト、リチャード・ジェラム(Richard Jerram)氏は、「一般的に金融刺激策はかなり効果的だといえる」と語る。しかし日本では、財政出動は無駄な事業に使われることが多かったうえ、政府が銀行セクターの問題に取り組むのが遅れたと指摘する。さらに日本政府は景気回復の兆しがみえるたびに対策の手を緩めてしまった。

 米国にとって真の問題は、「金融システムの改善に決意を持って取り組めるかどうかだ」とジェラム氏は語る。経済が好転すると金融機関の問題も改善したか のように見えるかもしれないが、銀行の問題が本当に解決しないかぎり、「金融刺激策の勢いがなくなると同時に金融問題は再び悪化する」と忠告する。

■「魔法の杖」ではないが一定の効果

 日本は巨額を投じた橋梁(きょうりょう)、ダム、高速道路、会議施設などで溢れている。これこそアジア最大の経済大国が景気後退から脱却しようとした取り組みの遺産だ。

 全労働者の1割が建設業界で働く日本では、90年代前半に膨大な公的資金がインフラ整備に投入された。

 巨額の公共投資が景気に与えた影響については現在でも意見が分かれている。米JPモルガン証券(JP Morgan Securities)の菅野雅明(Masaaki Kanno)氏は、財政出動による公共事業は「魔法の杖」ではなかったかもしれないが、衝撃を吸収するクッションの役割は果たしたと考えている。

 菅野氏は、90年代に日本から得られた第1の教訓として公共事業に経済への浮揚効果が認めらることを挙げている。ただし第2の教訓として景気刺激策による景気回復は非常に不安定で、経済が二番底へ転落することもありえると指摘する。

■消費税増税で景気後退まねく

 財政赤字拡大を阻止するため1997年に消費税がそれまでの3%から5%に引き上げられたことをきっかけに、日本の景気は再び急速に後退してしまった。この結果、日銀(Bank of Japan)は金利を引き下げ、政府は最終的に金融機関への公的資金投入を迫られることになった。多くの専門家はこの救済策は十分に練り上げられていなかった上、遅すぎたと述べている。

 経済が回復基調に乗った00年代半ばには、構造改革を掲げた小泉純一郎(Junichiro Koizumi)首相ら歴代首相が、肥大した公共事業予算の削減に動いた。

 しかし、多くの地方は雇用を公共事業に頼っていることから公共事業予算の削減は地方自治体はもちろん、与党・自民党(Liberal Democratic PartyLDP)内部から抵抗を受けることも珍しくなかった。半世紀にわたって政権の座にあった自民党はいま、今後もその立場を維持できるのか瀬戸際に立たされている。

 菅野氏は、公共事業に関連した利益団体が形成されてしまうと公共事業を中止することは非常に困難になると述べ、米国にはこの点に留意して欲しいと語った。(c)AFP/Daniel Rook