2011年4月14日木曜日

石炭は核よりも危ない

 ドイツの緑の党が、初めて州政権一つを握ることとなった。ドイツでは日本の原子力発電所の危機を受けて複数の原発を一時的に停止したが、それら原発の将来を決するのにちょうど間に合った形だ。日本の原発問題が影響し、緑の党は2週間前の州議会議員選挙で異例の勝利を勝ち取った。

Associated Press

放射線検査をしながら東京で販売されたイチゴ(12日)

 緑の党が原発反対の姿勢を維持するなら、その結果もたらされる電力不足には、消費者が価格の大幅上昇を受け入れるしかない。しかし、緑の党のリーダー、クレッチマン氏はすぐに過激な政策をとろうとはしないだろう。風力や太陽光は夢の話だ。選択肢となるのは、原子力か石炭だ。

 いまやチェルノブイリと並ぶレベルとなった日本の惨状を受けて(ただし、放出された放射性物質の量は比較にならないほど低いが)、世界中の国々が同様の選択をしている。どこの政府も、さまざまな考え方が入り乱れた現代科学の難問と再び向き合うこととなった。すなわち、「低レベルの放射線を浴びると、どのくらい害があるのか」という問題だ。

 過去60年間、異常な量の放射線を浴びた人たちの間で、「過剰な」発がん率があるかどうかが研究されてきた。その結果は、科学的に満足なものではなく、政治的にやっかいなものだ。

 米国と日本の政府が共同で行い、かつては評価されていた広島と長崎の研究では、低線量の被ばくでは、がんのリスクはほとんど、あるいはまったくないという結果だった。むしろ、低線量の被ばく者は「がん以外の」病気による死亡が少ないことから、長寿につながるとも考えられた。だが、この原爆の研究は、ここ数十年で科学的な価値が疑われるようになった。理由の一つは「生存者バイアス」だ。生き残った人たちは、原爆だけでなく、その後すぐに住居の喪失や飢え、台風などを経験し、くぐり抜けてきた。つまり、一般的な日本人より屈強な人々ではないかと考えられるのだ。

 1980年代には、胎児のときにエックス線を浴びた英国の幼児の調査や、米国核施設の労働者の調査が行われ、原爆の研究は次第に脇に追いやられるようになった。これには法規制の面での思惑も絡んでいた。これらの調査では、シンプルで直感的な「比例的で、閾値はない」という仮説が証明されたと考えられたのだ。つまり、放射線の危険度は、線量に正比例するということだ。

 これらの調査にも問題はあった。英国の母親たちは、出産後何年も経ってから、妊娠中に何回エックス線を浴びたかを記憶に頼って答えなければならなかった。ハンフォード核施設の労働者の調査でも、3万5000人の労働者の中で2500人ががんにかかり、それが6%から7%「過剰」だったと主張していた。

 ほかにも、さまざまな説がある。研究所内の実験では、低レベルの放射線は細胞自体の修復機能を刺激すると考えられた。放射線科医を対象とした研究では、エックス線の危険性が知られる前に仕事に従事していた人たちの間では、発がん率が高いことが示された。しかし、のちの調査では、少量の放射線を一生涯浴び続けても、まったく影響がなかったという結果も示された。

 そして「ホットパーティクル」の問題もある。つまり、本当に危険なのは、飲み込まれたり吸い込まれたりして、体内に長期的に存在し続ける粒子ではないかという説だ。通常は放射線が皮膚から入ってこないようなエネルギーの低い粒子でも、これが起こり得るという。

 1986年にウィーンで開かれた会議では、チェルノブイリの事故でこうした議論に結論が出るのではないかと、専門家たちは期待した。その中の一人が言った。「20年か30年のうちには、比例仮説が(正しいのか)どうなのか分かるだろう。少なくとも、白血病や肺がんとの関連性は分かるはずだ」

 そうはならなかった。放射線を浴びた子供たちの間では、治療可能な甲状腺がんはかなり増加した(これは、当時もっと迅速な行動をとっていれば防げたものだ)。しかしそれ以外は、国連の監視プロジェクトでは、チェルノブイリ地域の住民の間に「がんの発病や死亡率の上昇を示す科学的な証拠」は見つからなかった。

 だが、だからと言って、「過剰な」がんによる死亡を予測する他の何万もの研究を止めることにはなっていない。そうした研究は、欧州中で何十年にもわたって行われ、すべて「比例的で、閾値はない」モデルを基盤としている。また、どこの政府でもそのモデルを規制の基準としている。

 これらのことがすべて、日本では直接的な意味を持つ。中でも、ホットパーティクルの問題はいずれ大きな懸念材料となるだろう。「比例的で、閾値がない」とする考え方では、日本政府はどのレベルの放射線も「安全だ」とは言えなくなる。たとえそれが、平均的な人にとっては、無視できる程度のリスクのものだったとしても。この先何十年にもわたり、発がん率の小さな変化を巡る論争や、ある患者が「福島原発の犠牲者か」という答えの出ない論争に、日本政府は振り回されるかもしれない。

 もちろん、バーデン・ビュルテンベルク州の緑の党にとって強烈な皮肉となるのは、リスクのモデルなど関係ないということだ。どこから見ても、核よりは石炭の方がずっと危険なのだ。

 統計的な予測の産物ではない、実際の死者数から示そう。毎年、炭鉱事故(特に中国での事故)で死亡する人の数は、核関連の事故の死者数合計より数千人以上多い。さらに、石炭火力発電所では水銀や他の金属など、有害な物質を排出する。加えて、放射性トリウムやウラニウムなどの排出量は、原子力発電所よりも多い。水銀などの金属は、「比例的で、閾値のない」考え方に、まさに沿うものである。2004年に米環境保護省が出した推計によると、当時推進されていた新たな排出基準に従うだけで、年間1万7000人の命が救えるという。

 つまり、バーデン・ビュルテンベルク州の緑の党にとって、これは朝飯前の問題だ。そう、分かるだろう。どっちにしろ、原発は廃炉だ。反原発の姿勢は、検討すべきテーマではなくて、信念の問題なのだから。

世界で最も安全な国債は?

 【ロンドン】安全な場所など、あるのだろうか。

 ウォール街の金融界は、西側先進国が発行した国債が最も安全な投資先だと言うだろう。

イメージ

 しかし、最近の出来事は、その考え方を否定するものだ。国際的な救済パッケージがないとしたら、ギリシャやアイルランド、ポルトガルの国債は間違いなくデフォルト(債務不履行)になっていただろう。

 問題はそれで終わり、と思ってはいけない。スペインの財政は悪化している。イタリアの純債務は国内総生産(GDP)の100%だ。

 ドイツ、スイスは大丈夫だ。しかし、ドイツとスイスの銀行が保有する欧州の不良債権は、一体どのくらいなのか。ロンドンの金融関係者は、ドイツの銀行が、スペイン関連などの多額の損失を書類の下の小さな活字に隠し、新たな“リーマン・ブラザーズ”となるのではないかと懸念している。

 他の地域では、国家財政が混迷している。日本の債務はチャートを突き抜け、経済規模の2倍を超えている。

 米国の公的債務総額はGDPのちょうど100%で、急速に拡大しつつある。米国は、自分の問題さえ対処できない。8日のどたばたはその予兆だった。あと1時間で、不名誉な政府機関の閉鎖に追い込まれるところだったのだ。このような危機は、おそらく、これが最後ではないだろう。

 それでも、ウォール街は、米国債は「リスクフリー」だと主張し続ける。

 このような状態で、誰を信用できるのか。メルトダウンを懸念するなら、どの国の財政が安全で健全なのか(もしあればの話だが)。

 そんな国は多くはない。

 国際通貨基金(IMF)によると、安全安泰なのは一握りの国だ。

 たとえば、オーストラリアとニュージーランド。デンマーク、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーといったスカンジナビア諸国。

 大半の先進国が巨額の債務をため込む一方、こうした国は、債務を経済に比して低い水準に抑えてきた、とIMFは指摘する。彼らの公的年金制度には十分な資金がある。純債務がゼロという国も2、3ある。

 最強の国家財政を誇る国はどこか。ノルウェーだ。

 IMFの試算によると、ノルウェーの公的貯蓄は、公的債務をGDPの160%も上回っている。

 驚くことに、IMFの表のノルウェーの「純債務」には大きなマイナスの数字が並んでいる。

 どの国も、これには及ばない。

 この奇跡はなぜ起きたのか。ノルウェーは豊富な北海油田を持つ。普通の国と違い、ノルウェーは、この原油収入を減税や住宅バブルで浪費せず、万が一の備えにすることを決めたのだ。

 彼らは、石油収入を、政府の年金基金「Government Pension Fund Global(政府年金基金グローバル)」の財源とした。同基金では、財務省が国外の様々な投資対象、株式や債券に投資する。

 この基金の運用総額は現在、5120億ドル(約43兆円)。政府系ファンドとしては、世界第2位だ。

 ノルウェーは豊富な石油があるから幸運、という見方もある。

 しかし、貴重な天然資源を持つ国は多い。ほとんどの国がそれを浪費するだけだ。米国は、原油、石炭、天然ガス、その他多くの資源に不足していない。それなのに、われわれの国家債務は膨らんでいる。

 英国は、北海油田に恵まれているが、大きな債務も抱えている。その資金の大半は、1980年代の減税と、数百万人の失業保険に使われた。

 多くの国は、年金基金を自国の国債で運用する。ノルウェーの基金は、海外に投資される。

 法律によって、ノルウェーが利用を許されるのは、インフレとコストを差し引いた実質ベースの毎年の投資収益だ。昨年、政府予算の13%がこうした収益によってまかなわれた。

 ノルウェーの基金は、ほとんど財務省直轄で運営されている。しかし、この基金は、株と債券による本格的な分散投資が始まった1998年以降、年率で3.1%の投資収益(インフレとコストを引いた実質ベース)をあげている。

 総収益にして49%。悪くない。

 1998年は、株式市場バブルのピークに近く、株式投資をスタートする年としては不向きだったことを考慮せねばなるまい。また、こうした収益はクローネ建てだ。クローネは、当時ブームに沸いていたため、自国通貨に換算した投資収益を圧迫する。

 当時は大体、投資資産の構成は債券が60%、株式が40%だった。現在はちょうどそれが逆転している。欧州への投資にウエートが置かれている。

 つまりこうだ。金融情報サービスのFactSetによると、この間、バンガードのトータル(US)ストック・マーケット・ファンドに投資したノルウェーの投資家は、クローネ建てで23%のリターンしかあげられなかったことになる。バンガードのインターナショナル・ストック・インデックス・ファンドであれば46%、トータル(US)ボンド・マーケット・インデックス・ファンドであれば57%のリターンが期待できた。

 コストはわずか年0.1%だ。

 ここで一番の問題は、現在、ノルウェー国債の利率が米国債を上回っていることだ。(当然ながら、米投資家は為替リスクを考慮する必要がある。クローネが対ドルで下落すれば、実入りは少なく、上昇すれば多くなる)

 10年物のノルウェー国債(ブローカーを通じて購入可能)の利回りは3.9%。10年物米国債の利回りは3.5%。さあ、あなたならどちらを選ぶ?

2011年4月13日水曜日

次にスペインが救済される理由


人口の3分の2が都市部に集中? 50年後の世界のために温暖化対策を - スペイン

皆が「スペインは安全」と言うけれど・・・(写真は首都マドリードの夕暮れ)〔AFPBB News

先週指摘したように、欧州の政治家には、危機の解決を永久に先送りするあらゆる動機がある。その間にも、複数のユーロ圏周縁国の債務が増加し続ける。

 ポルトガルは6日、避けられない事態をようやく受け入れ、金融支援を要請した。欧州の当局者たちはすぐに、これが絶対に最後の救済になると宣言した。ブリュッセルの誰もが必死になって、スペインは安全だと主張した。

 欧州中央銀行(ECB)は7日、主要政策金利を0.25%引き上げ、1.25%とすることを決めた。今回の利上げは事前にはっきり合図が出されていたが、利上げは今後も続くだろう。筆者はECBの主要政策金利が今年末までに2%に上昇し、2013年には3%になると考えている。

ECBの利上げがスペインの不動産市場を直撃

 こうした軌道はECBのインフレ目標と一致しているが、特にスペインに悪影響を及ぼす。経済成長に対する直接的な影響は別として、金利上昇はスペインの不動産市場に打撃を与えるからだ。

 スペインの住宅ローンはほぼすべてが1年物の欧州銀行間取引金利(EURIBOR)に基づいており、1年物金利は現在2%に迫り、上昇している。

 スペインは危機以前に極度の不動産バブルを経験した。米国やアイルランドと異なり、価格はこれまで緩やかにしか下落していない。国際決済銀行(BIS)のデータによれば、スペインの実質住宅価格(1平方メートル当たりの価格を個人消費デフレーターで調整した数字)は、通貨同盟の当初から2007年6月のピークにかけて106%上昇した。

 高値をつけた後は2010年末までに18%下落している。こうした計算は起点となる日に大きく左右されるが、スペインの実質価格は1990年代を通して比較的横ばい傾向が続いたため、これは比較的安全な起点と言えるだろう。

住宅価格はさらに40%下落

 住宅価格の下落はどこで止まるだろうか? 筆者は、この上昇分がすべて帳消しになると見ている。ピークから大底までの下落幅は50%を超え、価格は現在の水準からさらに40%下がらなければならないだろう。

 これは妥当な想定だろうか? 米国では、実質住宅価格は20世紀の大部分を通じて停滞した。供給を調整できる限り、例えば移民などを通じた需要の増加は、価格水準に影響しないはずだ。

スペイン、失業率20.33%に 先進国で最悪水準

スペインの昨年末時点の失業率は20%を超えている(マドリードの公共職業安定所前に並ぶ人々)〔AFPBB News

 英国のように、供給に自然あるいは人為的な制約がある国では、状況が異なる。だが、供給条件の点では、スペインはむしろ米国とよく似ている。

 筆者は、なぜ今のスペインの実質住宅価格が10年前より高くあるべきなのか、なぜ価格が上昇し続けるべきなのかを説明する合理的な理由をまだ1つも聞いたことがない。

 スペインの住宅市場に関する最も重要な統計は、空き家の数だ。空き家は現在、およそ100万戸で、これは市場が今後数年間にわたって過剰供給に苦しめられることを意味している。これがさらなる価格下落の要因となる。

 システムにかかるストレス、つまり、景気後退や高い失業率、弱い金融セクター、原油高、金利上昇といったものを考えると、住宅価格が大幅に下落し、水平トレンドラインを割り込む事態さえ予想されるかもしれない。

貯蓄銀行に大きな打撃

 住宅価格の下落住宅ローン返済額の増加は必ず、まだ高くない返済遅延率と差し押さえ件数を押し上げる。これはスペインのカハ(貯蓄銀行)のバランスシートに影響する。バランスシートはすべての不動産ローンと住宅ローンを原価で計上している。デフォルト(債務不履行)率が上昇するに従って、貯蓄銀行は損失をカバーするために資本を増強する必要が出てくる。

 スペイン政府は必要な資本増強額が200億ユーロを下回るという疑わしい試算をしている。一方、その他の試算では、500億~1000億ユーロという数字が挙げられている。

 最も危険にさらされている資産は、建設・不動産セクターに対する融資で、その額は2010年末で4390億ユーロに上っている。スペインの銀行は、また別のリスクの源であるポルトガルに対しても1000億ユーロの債権を抱えている。

 朗報は、最悪のシナリオの下でも、スペインにはまだ支払い能力があることだ。スペインの公的部門の対国内総生産(GDP)債務比率は、2010年末時点で62%だった。アーンスト・アンド・ヤングは最新のユーロ圏予測で、この債務比率が2015年までに72%に上昇すると予想している。それでもドイツ、フランス両国の水準を下回る比率だ。

 しかし、スペインの民間部門の対GDP債務比率は170%に上っている。経常収支の赤字は2008年にGDP比10%でピークをつけたが、今も持続不能な高さで、2015年までGDP比3%を超す赤字が続くと予想されている。これはスペインがネット(純額ベース)の対外債務を積み上げていくことを意味している。

 スペイン銀行によれば、同国のネットの対外資産負債残高(対外金融資産と対外債務の差)は2010年末時点でマイナス9260億ユーロだった。GDPの90%近い水準だ。

スペインは安全という声明は慢心

 もしスペインの不動産市場に関する筆者の勘が正しければ、スペインの銀行セクターは現在試算されている以上の資本が必要となるだろう。それがいくらなのかは分からない。我々は予想モデルの範疇を大きく外れているからだ。

 価格が急激に下がると、どんな資産査定(ストレステスト)でも捉え切れない大きな内部圧力が生じる。

 多大な対外債務と金融セクターの脆弱性、そして資産価格がさらに下落する可能性という組み合わせは、ある時点で資金調達難が起きる確率を高める。このことはスペインが欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に金融支援を求める次の国になることを意味している。

 スペインは安全だという多くの公式声明について言えば、それは単に、欧州の危機を当初から特徴づけてきた慢心の度合いを測る指標だと筆者は思っている。

「イランはまもなく核燃料製造国の仲間入りを果たす」

イランのサマレ・ハーシェミー大統領補佐官が、「イランはまもなく、核燃料プレートの製造国の仲間入りを果たす」と表明しました。
イルナー通信によりますと、サマレ・ハーシェミー補佐官は11日月曜、記者団に対し、「テヘランの研究用原子炉のみで使用される20%の濃縮ウランの燃料プレートの製造が最終段階に入っている」と語りました。
また、「イラン原子力庁は、この作業を開始するための施設を建設し、設備を整えており、計画通りに稼動が開始される」と述べています。
サマレハーシェミー補佐官は、イランで新たなウラン鉱脈が発見されたことに触れ、「イラン中部ヤズド州で、大規模なウラン鉱脈が発見されたことにより、イラン全国におけるウラン鉱石の獲得に関して明るい展望が生まれている」としています。
サマレ・ハーシェミー補佐官はさらに、イラン中部のアラーク重水製造工場について、「この工場は、予定された計画通りに稼動を継続しており、合理化が進められ、その製造量が10%増加している」と語りました。

年金制度:70歳まで頑張るか破綻か

定年を引き上げる現在の計画だけではまだ不十分だ。

2008年から米国ベビーブーマー大量引退、その影響は?

70歳まで働くしかない(写真は米オハイオ州にある化粧品メーカーの製造工場で働く地元の高齢者たち)〔AFPBB News

豪華客船の旅のパンフレットは引き出しにしまおう。庭もあと数年は茂り放題でかまわない。人口動態と投資収益率の低下のせいで、あなたはこの先、想像以上に長く仕事を続けることになる。

 このつらい現実は、先進国ではもはや目新しいニュースではなく、多くの政府は高齢化問題への取り組みを始めている。

 各国は既に定年(公的年金の支給開始年齢)の引き上げを発表している。これにより、労働者に現在の仕事を続けるか、他に新しい仕事を探すよう促し、公的年金のコストを抑えようという施策だ。

 残念ながら、最も大胆な計画でもまだ不十分なようだ。高齢者は、恐らく各国政府が現在予測しているよりも長く経済活動を続けなければならない。そのためには、政府だけでなく、雇用主や労働者も今までとは違う行動を迫られるだろう。

努力はしているが、まだ足りない

 先進国における65歳の平均余命は、1971年以降4~5年延びている。そしてこの数字は、2050年までにさらに3年ほど延びると予測される。これまで人々は、寿命が延びた分をすべて余暇として使ってきた。2010年の経済協力開発機構(OECD)諸国の平均的な定年は63歳で、1970年当時より丸1年近く早くなっている。

 長生きをして、早々と退職するのは、労働力の供給量が増えている時なら問題ないのかもしれない。しかし、出生率の低下によって、米国では、2050年には1人の年金生活者をわずか2.6人の労働者で支えなければならなくなる。この数字は、フランス、ドイツ、イタリアではそれぞれ1.9人、1.6人、1.5人となる。

 別項で解説しているように、若者たちは問題だらけの年金システムを支えなければならないのだ。

 ほとんどの国の政府が、既に定年の引き上げを計画している。米国は67歳、英国は68歳を目指している。そこまで急いでいない国もある。例えば、ベルギーは女性の60歳定年を認めており、今のところ、それを変える予定はない。現行の政策では、2050年の平均定年は相変わらず65歳未満で、これは第2次世界大戦直後をわずかに上回っているに過ぎない。

 平均寿命が延び続けているため(先進国では毎年、1カ月弱ずつ延びている)、米国や英国の計画でさえまだ足りないほどだ。欧州の定年は、2040年までに70歳に引き上げなければならない。欧州より若年人口が多い米国では、それよりわずかに低くできる余裕がある。

 定年の引き上げには、3つの大きな利点がある。従業員は賃金を受け取る年数が増える。政府は税収が増え、給付額が減る。そして、より多くの人々が長い年数働くため、経済成長が加速する。高齢労働者は、これまで見過ごされてきた消費者市場でもある。これについては、別項でメディアの視聴者・読者の高齢化に関して解説している。

仏全土で大規模デモ、年金開始年齢引き上げに抗議

フランスでは昨年、年金支給開始年齢を60歳から62歳に引き上げる年金制度改革法案に反対する大規模デモが繰り広げられた〔AFPBB News

 それにもかかわらず、仕事人生の延長を、チャンスではなく心配の種だと受け止めている人が多すぎる。そう受け止める理由は、これからも仕事に縛られるからというだけではない。雇用が不足すると取り越し苦労をする人もいるのだ。

 エコノミストたちの間で「労働塊の誤謬」として知られるこの誤解は、かつて、一家の稼ぎ手に仕事を残しておくために女性は家にいるべきだという議論の論拠として利用された。そして今では、高齢者が働き続けることで若者の雇用機会が奪われると彼らは言う。

 お金をもらって遊んで暮らせる国民を増やすことで社会が豊かになれるという考え方は、明らかに馬鹿げている。この考え方によると、定年が25歳になれば、誰もが大金持ちになれるはずだ。

 定年の引き上げは解決策の1つに過ぎない。というのも、定年前に退職する労働者がかなりいるからだ。ワシントンに拠点を置くピーターソン国際経済研究所のマーティン・ベイリー氏とジェイコブ・カークガード氏は、欧州の実際の退職年齢を公式な定年にまで引き上げることで、向こう20年間、高齢化の影響を相殺できると考えている。

 そのためには、労働慣行や、労働に向かう姿勢を変えなければならない。欧米の経営者は、高齢労働者のクオリティを気にしすぎている。確かに、肉体労働が必要な職業では、60代後半まで働き続けるのは難しい人もいるだろう。不適格となった人は障害者給付が必要になるだろうし、別の仕事を探さなくてはならない人も出てくる。

 しかし、製造業よりサービス業が基本となっている現在の経済では、この問題は以前ほど大きくないはずだ。知識ベースの仕事では、年齢はそれほど不利にはならない。高齢者は、判断は遅くなるかもしれないが、経験が豊富で、総じて個人的な技能が高い。

 とはいえ、ほとんど人の生産性は年齢とともにやがては衰えていくので、この能力の減退は報酬に反映させる必要がある。したがって、年齢を重ねるほど昇進し昇給する従来の年功序列制度は変えていかなければならない。

不足する3兆ドル

 民間部門は既に、年金制度の膨大な費用の問題に対処している。最近の新規雇用者に、退職時の給与を年金額の算定基準とする方式が適用されることはまずない。しかし、公的部門では今でもこの最終給与基準方式が標準的だ。

 英国では先頃ジョン・ハットン卿が報告書を発表し、賢明な改革案を提示した。労働者の既得権は維持されるべきだが、将来の年金受給権は、国の定年(公的部門の労働者の多くが定年より早く退職している)と平均給与(最終給与ではなく)に基づくものとすべきだ。これにより、制度の悪用を防ぐことができ、パートタイムの就労が容易になるだろう。

 公的部門の年金問題が最も深刻なのは米国の各州である。年金基金の不足は、総額3兆ドルに上るかもしれない。米国は、法律上、憲法上の制約があり、英国の例にならうことができない。賃金についてはそうでないのに、不思議なことに、年金の契約は恒久的で不可侵のものと見なされてきた。しかし、財政面の圧力が顕在化するにつれ、政治家は法律や憲法を改正せざるを得なくなる。

 民間部門の労働者は、また別の問題を抱えている。最終給与基準の年金方式の消滅により、2つの大きなリスクに直面しているのだ。1つは、市場の落ち込みによって退職後の生活設計が打撃を受けること。もう1つは、生きている間に貯蓄が底を突くかもしれないということだ。

 そこで政府は、オプトイン(任意加入)方式ではなくオプトアウト(自動加入)方式にすることで労働者に年金加入を促し、貯蓄を増やすよう働きかけるべきだ。また、不運にも十分な貯蓄ができなかった高齢者も人並みの収入を得られるよう、(倹約をしてきた人が不利にならないようにしながら)基礎年金は高くする必要がある。

 70歳までせっせと働いてきたのだから、最低限それだけのものを受け取るのは当然のことだ。