2011年4月13日水曜日

年金制度:70歳まで頑張るか破綻か

定年を引き上げる現在の計画だけではまだ不十分だ。

2008年から米国ベビーブーマー大量引退、その影響は?

70歳まで働くしかない(写真は米オハイオ州にある化粧品メーカーの製造工場で働く地元の高齢者たち)〔AFPBB News

豪華客船の旅のパンフレットは引き出しにしまおう。庭もあと数年は茂り放題でかまわない。人口動態と投資収益率の低下のせいで、あなたはこの先、想像以上に長く仕事を続けることになる。

 このつらい現実は、先進国ではもはや目新しいニュースではなく、多くの政府は高齢化問題への取り組みを始めている。

 各国は既に定年(公的年金の支給開始年齢)の引き上げを発表している。これにより、労働者に現在の仕事を続けるか、他に新しい仕事を探すよう促し、公的年金のコストを抑えようという施策だ。

 残念ながら、最も大胆な計画でもまだ不十分なようだ。高齢者は、恐らく各国政府が現在予測しているよりも長く経済活動を続けなければならない。そのためには、政府だけでなく、雇用主や労働者も今までとは違う行動を迫られるだろう。

努力はしているが、まだ足りない

 先進国における65歳の平均余命は、1971年以降4~5年延びている。そしてこの数字は、2050年までにさらに3年ほど延びると予測される。これまで人々は、寿命が延びた分をすべて余暇として使ってきた。2010年の経済協力開発機構(OECD)諸国の平均的な定年は63歳で、1970年当時より丸1年近く早くなっている。

 長生きをして、早々と退職するのは、労働力の供給量が増えている時なら問題ないのかもしれない。しかし、出生率の低下によって、米国では、2050年には1人の年金生活者をわずか2.6人の労働者で支えなければならなくなる。この数字は、フランス、ドイツ、イタリアではそれぞれ1.9人、1.6人、1.5人となる。

 別項で解説しているように、若者たちは問題だらけの年金システムを支えなければならないのだ。

 ほとんどの国の政府が、既に定年の引き上げを計画している。米国は67歳、英国は68歳を目指している。そこまで急いでいない国もある。例えば、ベルギーは女性の60歳定年を認めており、今のところ、それを変える予定はない。現行の政策では、2050年の平均定年は相変わらず65歳未満で、これは第2次世界大戦直後をわずかに上回っているに過ぎない。

 平均寿命が延び続けているため(先進国では毎年、1カ月弱ずつ延びている)、米国や英国の計画でさえまだ足りないほどだ。欧州の定年は、2040年までに70歳に引き上げなければならない。欧州より若年人口が多い米国では、それよりわずかに低くできる余裕がある。

 定年の引き上げには、3つの大きな利点がある。従業員は賃金を受け取る年数が増える。政府は税収が増え、給付額が減る。そして、より多くの人々が長い年数働くため、経済成長が加速する。高齢労働者は、これまで見過ごされてきた消費者市場でもある。これについては、別項でメディアの視聴者・読者の高齢化に関して解説している。

仏全土で大規模デモ、年金開始年齢引き上げに抗議

フランスでは昨年、年金支給開始年齢を60歳から62歳に引き上げる年金制度改革法案に反対する大規模デモが繰り広げられた〔AFPBB News

 それにもかかわらず、仕事人生の延長を、チャンスではなく心配の種だと受け止めている人が多すぎる。そう受け止める理由は、これからも仕事に縛られるからというだけではない。雇用が不足すると取り越し苦労をする人もいるのだ。

 エコノミストたちの間で「労働塊の誤謬」として知られるこの誤解は、かつて、一家の稼ぎ手に仕事を残しておくために女性は家にいるべきだという議論の論拠として利用された。そして今では、高齢者が働き続けることで若者の雇用機会が奪われると彼らは言う。

 お金をもらって遊んで暮らせる国民を増やすことで社会が豊かになれるという考え方は、明らかに馬鹿げている。この考え方によると、定年が25歳になれば、誰もが大金持ちになれるはずだ。

 定年の引き上げは解決策の1つに過ぎない。というのも、定年前に退職する労働者がかなりいるからだ。ワシントンに拠点を置くピーターソン国際経済研究所のマーティン・ベイリー氏とジェイコブ・カークガード氏は、欧州の実際の退職年齢を公式な定年にまで引き上げることで、向こう20年間、高齢化の影響を相殺できると考えている。

 そのためには、労働慣行や、労働に向かう姿勢を変えなければならない。欧米の経営者は、高齢労働者のクオリティを気にしすぎている。確かに、肉体労働が必要な職業では、60代後半まで働き続けるのは難しい人もいるだろう。不適格となった人は障害者給付が必要になるだろうし、別の仕事を探さなくてはならない人も出てくる。

 しかし、製造業よりサービス業が基本となっている現在の経済では、この問題は以前ほど大きくないはずだ。知識ベースの仕事では、年齢はそれほど不利にはならない。高齢者は、判断は遅くなるかもしれないが、経験が豊富で、総じて個人的な技能が高い。

 とはいえ、ほとんど人の生産性は年齢とともにやがては衰えていくので、この能力の減退は報酬に反映させる必要がある。したがって、年齢を重ねるほど昇進し昇給する従来の年功序列制度は変えていかなければならない。

不足する3兆ドル

 民間部門は既に、年金制度の膨大な費用の問題に対処している。最近の新規雇用者に、退職時の給与を年金額の算定基準とする方式が適用されることはまずない。しかし、公的部門では今でもこの最終給与基準方式が標準的だ。

 英国では先頃ジョン・ハットン卿が報告書を発表し、賢明な改革案を提示した。労働者の既得権は維持されるべきだが、将来の年金受給権は、国の定年(公的部門の労働者の多くが定年より早く退職している)と平均給与(最終給与ではなく)に基づくものとすべきだ。これにより、制度の悪用を防ぐことができ、パートタイムの就労が容易になるだろう。

 公的部門の年金問題が最も深刻なのは米国の各州である。年金基金の不足は、総額3兆ドルに上るかもしれない。米国は、法律上、憲法上の制約があり、英国の例にならうことができない。賃金についてはそうでないのに、不思議なことに、年金の契約は恒久的で不可侵のものと見なされてきた。しかし、財政面の圧力が顕在化するにつれ、政治家は法律や憲法を改正せざるを得なくなる。

 民間部門の労働者は、また別の問題を抱えている。最終給与基準の年金方式の消滅により、2つの大きなリスクに直面しているのだ。1つは、市場の落ち込みによって退職後の生活設計が打撃を受けること。もう1つは、生きている間に貯蓄が底を突くかもしれないということだ。

 そこで政府は、オプトイン(任意加入)方式ではなくオプトアウト(自動加入)方式にすることで労働者に年金加入を促し、貯蓄を増やすよう働きかけるべきだ。また、不運にも十分な貯蓄ができなかった高齢者も人並みの収入を得られるよう、(倹約をしてきた人が不利にならないようにしながら)基礎年金は高くする必要がある。

 70歳までせっせと働いてきたのだから、最低限それだけのものを受け取るのは当然のことだ。

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