2009年2月16日月曜日

量子コンピューティングを脅かす「量子もつれの突然死」

従来の物理の法則に反して、2つの量子状態が互いに相関を持つ不可思議な「量子もつれ」[「量子絡み合い」「量子エンタングルメント」などとも呼ばれる]の現象。これを応用した先進技術の開発に、とある不安材料が指摘されている。その不安材料とは、同じく従来の物理の法則に反するもう1つの不可思議な現象、「量子もつれの突然死」だ。

量子コンピューティング(日本語版記事)、量子暗号量子テレポーテーション(日本語版記事)――これらはすべて、量子もつれ現象を必要とする。問題は、それをどれくらいの時間無事に保てるか、という点だ」と、ロチェスター大学の物理学者Joseph Eberly氏は話す。

量子もつれでは、量子単位(通常は電子)が相互依存的な状態で存在している。一方が「上方向に」スピンしていれば、もう一方は下方向にスピンしている。この関係は距離に関係なく持続し、バイナリ情報をほぼ瞬時に送信することを可能にする。

(この説明でピンと来なければ、下の注を参照してほしい。)

だが、量子もつれは絶対的な現象ではない。逆方向に違う速度で時を刻み始める2つの時計のように、相関は低下しうる。この低下を防ぐことは不可能に 近く、電磁放射からランダムに飛来する宇宙線、近所の交通騒音まで、あらゆるものによって引き起こされるエネルギーの変化が原因となって起こる。

物理学者は、量子もつれの消滅を予測して理論的に回復させることができるが、それは半減期の法則(一定時間で量が半減するが、けっしてゼロにはならない)に従っている場合のみ可能だ、とEberly氏は言う。

一方、Eberly氏が最初に予測し、2007年に確認された「量子もつれの突然死」は、突如として起こり、半減期の法則に反してゼロの状態になる現象だ。

Eberly氏は、『Science』誌1月30日号に発表した論文の中で、突然死についてこのように述べている。

「突然死が起きる時間を予測するための法則はまだない。コンピューター科学者はこれまで、量子もつれの状態をほんのわずかでも回復させる方法の実証に頼ってきた。だが、突然死ではそれが役に立たない。死は死だ」

さらに悪いことに、量子もつれの状態を回復しようとする行為そのものが突然死を引き起こす可能性もあり、一種のジレンマだとEberly氏は述べている。

この現象への理解が深まるまで、量子技術は実現不可能かもしれない。だがEberly氏は、量子工学の研究者がいずれこの問題を克服するとみている。

特定の条件下では、逆の効果、すなわち量子もつれの突然発生が起きる可能性もある、とEberly氏は言う。また、たとえ抑止することはできなくて も、突然死がどれほどの速さで起きるかを突き止め、その時間内に量子計算を終了させるシステムを開発すれば、問題は解決できる。

「突然死が起こりうる最短の時間を知る者はいない。それが1ナノ秒なら、それより速く動作するシステムを作ればいい。物理学者というのは、自分が追い越せないほどの速さが存在することを認めたがらないものだ」とEberly氏は語った。

注:量子もつれの基本的なところが理解できないというみなさん、心配は無用だ。Eberly氏は次のように述べている。

「量子もつれに関するワークショップから戻ったばかりだが、そこでいちばんよく耳にした告白は、『自分は量子もつれのことを完全には理解していな い』というものだった。主催者や参加者でさえその程度だ。量子もつれが重要なことや、その特性は彼らも知っている。だが大半の物理学者にとって、自分は量 子もつれに精通している、あるいは理解していると主張するのは無理な話だ」

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