2009年2月16日月曜日

バクテリアの「知性」を研究する:情報伝達の仕組みを解明

バクテリアは人間にとって悪いものではない――これは、プリンストン大学の分子生物学者Bonnie Bassler氏が行なった、バクテリアの知性に関する驚くほど刺激的な講演に込められたメッセージだ。

バクテリアは人間が食物を消化するのを助けるもので、人間の生存には不可欠だ。だがそれだけではなく、バクテリアは全体が一つの動物であるかのように行動する社会的存在なのだと、Bassler氏は述べた。

同氏の講演は、2月上旬に開催された『TED会議』(TEDはテクノロジー、エンターテインメント、デザインの略)で行なわれた。

バクテリアは「クオラム・センシング」と呼ばれる機構を利用して情報を伝達し、病原因子の増殖などを含むあらゆる活動を調整している。この仕組みは、人間が病気と闘う上で非常に大きな意味を持つ。

[クオラム・センシングと は、フェロモン様の物質(クオルモン)のやりとりによって、細菌が自分と同種の細胞が周辺にどれくらいの密度で存在しているかの情報を感知し、それに基づ いて物質の産生をコントロールする機構。例えば、緑膿菌やセラチアなどの病原細菌は、感染した宿主が健康なときには病原因子を作らず、免疫の低下などに よって宿主の抵抗性が低下して菌数が増加したときに、クオラムセンシングによってさまざまな病原因子を産生するようになる]

バクテリアが情報をやりとりしている例としては、発光バクテリアの一種Vibrio fischeriがある。このバクテリアは、数多く集まると発光するが、数が少ないと発光しない。発光するのは、十分な数のVibrio fischeriが集まったときに、化学物質がやり取りされるからだ。

なお、ある種のイカは、このバクテリアの発光を利用している。イカは食物を探す際にこの光を隠れ蓑にしているのだ。[イカの体表面には発光バクテリアが よく生息しており、刺身用のイカを塩水に浸して一昼夜放置すると、培養されて表面に青い光が確認できる場合がある。マツカサウオなど一部の発光魚には、発 光バクテリアを増殖させるための発光器官を持つものがおり、獲物の捕獲、またはその逆で逃げる場合のめくらまし、誘導灯として用いていると考えられてい る]

情報の伝達手段は、バクテリアの種ごとに若干異なる。だが、Bassler氏と学生たちの研究チームは、Vibrio fischeriなどのバクテリアが情報のやり取りに利用する化学物質を特定した。

バクテリアが人間を病気にする毒性化合物を生成するために情報をやり取りする必要があるならば、こうした情報のやり取りを阻止する方法を見つけることはおそらく可能だろう。

Bassler氏はさらに、バクテリアのコロニーが[クオラム・センシングを通して]多細胞生物であるかのような行動をしていることに触れ、これを 通して、多細胞生物が生きる上でのルールを解明できる可能性があると述べた。バクテリアがどのように多細胞的に活動しているかのルールを解明することがで きれば、この知識を、人間の行動や病気の解明にも応用できる可能性もあるのだ。

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