2009年6月10日水曜日

北朝鮮国境レポート:経済力の圧倒的な差と「核問題」


板門店の軍事境界線を見る。なお、トップサイトの画像はWikipediaより

大韓民国ソウル発――朝鮮半島で全面戦争が起きるおそれはどの程度あるのだろう? この問いかけは、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の最近の「ロケット打ち上げ」や、寧辺(ヨンビョン)核施設の再開(日本語版記事)という脅しを考えるとき、大きな意味を持ってくる。

だが筆者は、最近韓国を訪れ、非武装地帯へのツアーに参加した結果、あの「Land of the Morning Calm」[朝鮮の英語別名としてよく使われる]で大きな戦争が起きるという心配は現実的ではない、と考えるようになった。その理由を説明しよう。

われわれを乗せたバスがソウルを抜けて北朝鮮へと向かう道中、首都圏全体で2300万人が暮らすこの都市ソウルが、いかに現代的で繁栄しているかということに改めて感銘を受けた。ガラスと鋼鉄の高層建築が見渡す限りそびえ、その多くが、世界でも最大級の企業のロゴを屋上に冠している。もちろん、それも道理だ。米中央情報局(CIA)によれば、韓国は世界14位の国内総生産(GDP)を誇っているのだから。[GDPの各国順位リストには、IMF、世界銀行のものもある。14位というのは、CIA調査による購買力平価ベースのGDP]

首都を北に進むにつれ、人口はだんだんと少なくなっていくが、現代的なインフラは変わらない。8車線の高速道路、現代的なホテル、多すぎるほどの自動車。そしてもちろん、要塞がある。幾重にも連なる防衛のための施設や障害物が、戦闘地域の前線としてのシステムを構築している。さらに北に向かうと、たくさんの掩蔽壕や監視塔、延々と連なる有刺鉄線が見えてくる。北朝鮮が攻め込んでくるなら、韓国は一歩も譲らないという計画だ。

ツアーがまず向かった見学地の1つが、烏頭山統一展望台だ。ハンガン(漢江)とイムジンガン(臨津江)を見晴らす山頂にあって、韓国側から北朝鮮を望む、観光客向け偵察基地とでも言おうか。

烏頭山の展望台では、北朝鮮の生活を映したビデオや、今見おろしている景色そのままの地形モデルを見ることができる。高倍率の双眼鏡で北朝鮮領をのぞくことさえできる。

のぞき見えるのは、世界で94番目のGDPの国だ。畑にいる少数の農民を除けば、何一つ動くものがない。背後の川沿いには何車線もある韓国の高速道路が走っているが、目の前には、どんな種類の自動車も見えなければ、舗装道路さえない。無骨で醜悪なコンクリートの建物は見えるが、窓があるようにさえ見えない。電気の気配もない。

展望台の建物の中には、『クムガンビール』(金剛ビール)など、北朝鮮の輸出製品が陳列されているが、どれも安っぽく不格好に見える。[金剛山は北朝鮮にある有名な山。韓国からの観光も行なわれていたが、2008年に韓国女性が立ち入り禁止区域に入ったとして射殺される事件が起きてから中断されている]

では、こういう状況が朝鮮半島の軋轢にどんな意味を持つのだろう? すべてだ。(文字どおり)飢餓と成育不全の経済状態である国が、経済的に世界でもトップクラスの、活気あふれる国を凌駕するチャンスなどまったくない。

確かに、北朝鮮が攻撃をかけ、血の惨事を引き起こすことはできるかもしれない。だが、それでどうなるというのだろうか? 掩蔽壕やトンネルから出た瞬間から、彼らは現代社会の餌食になる。北朝鮮の農民出身の戦車長は、蛇のように縦横にのたくるソウルの高速道路網を、GPSなしで走り回ることはできるかもしれない。だが、GPSによるナビゲーションシステムは、韓国の精密な武器が彼らを見つけ出し攻撃するのに申し分ない威力を発揮するはずだ。韓国の現代的なインフラを完璧に破壊してしまう以外に、北朝鮮が韓国を管理していける見込みはまるでない。

もちろんこの状況は、どんなに北朝鮮に制裁を加えたところで、同国の政権が終わりになることはないことをも意味している。微積分による限界のようなもので、限りなくゼロに近づくだけのことでしかないだろう。

そしてこれこそ、平壌(ピョンヤン)政府が核を持つ意味だ。権力を握るための手段。世界最大の交渉材料。――北朝鮮は韓国に戦争を仕掛けることはできない。軍隊がソウル北方の非武装地域で粉砕されたら、政権は終末を迎える以外に道は残っていないのだから。

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