2009年10月16日金曜日

暗黒物質を検出する新装置

青い光は写真を撮影したときのフラッシュの色。Photo:IAS/SINC
物理学者らによると、宇宙を構成しているもののうち現在検知されているものは、全体の約5%にすぎないらしい。目に見えているよりはるかに多くの質量の存在によって引力が生じている、とするよりほかに説明のつかない動きが、はるか彼方の銀河系で観測されていることから、「暗黒物質(ダークマター)」の存在が推測されている。物理学界では、暗黒物質が宇宙に占める割合は約20%であり、残る75%は「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」という、宇宙の膨張をますます加速させている謎めいた力で構成されると試算されている。
スペインのサラゴサ大学の物理学者、Eduardo Abancens氏らのチームは、「シンチレーティング・ボロメーター」と呼ばれる検知器のプロトタイプを作成し、暗黒物質の検知を目指している。[シンチレーション検出器は電離放射線を測定する測定器。荷電粒子がある種の結晶に入射した際、閃光や蛍光を発する物質をシンチレーターと言い、この光を光電子増倍管で何倍にも増幅して電気信号に変換するボロメーターは、放射エネルギーを検出・測定するための非常に感度の良い温度測定器]
この検知器のプロトタイプは、映画『ライラの冒険 黄金の羅針盤』に小道具として出てきそうな装置で、内部には非常に純度の高い結晶体が使われている。この結晶体のどれか1つの原子の核に暗黒物質の粒子がぶつかるとエネルギーが発生し、純度の高い結晶体はそのエネルギーを伝導できる。
宇宙線の干渉を防ぐため、検知器は鉛で覆われて、地下約800メートルの岩盤下に埋められる。さらに、あらゆる動きが停止する絶対零度[摂氏マイナス273.15度]近くまで冷やされる。暗黒物質の衝突で予想される温度変化は華氏1度の数百万分の1というわずかなものだが、絶対零度に近い温度であれば、その変化を計測できる。
『Optical Materials』誌の8月号に掲載され、9月末にはオンラインでも公開された論文によると、この検知器は現時点で、原子核の振動と電子の公転のそれぞれによって生じる振動の違いを区別できる精度だという。Abancens氏は、5年以内に稼働を開始できるだろうと語る。
だが、検知器の動作を信頼に足るものにするためには、さらに精度を上げねばならない。しかも、プロトタイプは重さ46グラムだが、実用モデルは約500キロになる予定で、その規模でも同じ精度を維持せねばならない、と、米ブラウン大学のRick Gaitskell教授(物理学)は語る。同教授は今回の研究には関わっていない。
絶対零度に近い温度での伝導研究は「かなり課題が多い」とGaitskell教授は言う。同教授は過去10年にわたり、絶対零度近くでの検知システムの作成を目指してきた。
「われわれは現在、キセノンを使用している。これは摂氏マイナス100度程度と、絶対零度に比べれば高温で、工業用冷凍庫でもこれに近い温度まで冷やせるものがあるほどだ」と、Gaitskell教授は語る。

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