2009年11月28日土曜日

映画を超える?「米軍の超能力・麻薬研究」

「この話には、あなたが思うよりも、真実の部分が多い」――米国で11月6日(米国時間)に公開された映画『The Men Who Stare At Goats』では、観客は開始から数分後にこう宣言される。[原作はイギリス人ジャーナリストJon Ronson氏による、1960年代の米軍レポートで、2004年に出版された。邦訳は『実録・アメリカ超能力部隊』(文春文庫)]

この映画に登場する突拍子もない軍事研究計画のうち、一体どれほどが実際に行なわれたのだろうか。実のところ、映画に登場する話題の大部分は、真実にかなり迫ったものであり――ただし実際は、もっと複雑なのだという。

超能力実験:

これは実際に行なわれていた。

今回の映画の原作となったノンフィクション本では、元陸軍大佐John B. Alexander氏のことが紹介されている。Alexander氏はベトナムで米陸軍特殊部隊の司令官を務め、数十年にわたって超能力者や「遠隔透視」能力を持つ人を国家安全保障に利用するアイデアを推進してきた。(同氏が神経言語プログラミングやUFOや非殺傷兵器への興味を追究するようになる以前の話だ)。Wired.comが行なった、Alexander氏へのインタビュー記事はこちら(日本語版記事)。

Wired.comでは、さらにこの分野に関する調査を深める中で、米Boeing社が60年代に行なった超能力実験などの過去の研究を紹介してきた。このBoeing社の実験では、何人かの被験者は、無作為に番号を生成する装置に、意思の力だけで特定の番号を出力させることができるようだ、との結論が出ている。

1985年以前の陸軍の報告書には、「サイコキネシスは、継続的な研究が行なわれ、有効利用できるレベルにまで開発された場合、今後の軍事作戦において軍事的価値を持つ可能性を秘めている」という記述がある(日本語版過去記事)。

比較的近年の1996年になっても、「視覚によらない知覚」なる現象が調査されているし、米軍のお抱え超能力者たちは今日なお活動中なのかもしれない。9.11テロはその何年も前に、遠隔透視能力者らによって予知されていた、と示唆する報告が2007年に公開されている。[リンク先記事によると、予言が出たとされるのは1986年。「建物の崩壊を伝える新聞の見出し、飛行機と関連したパニック」などの「予言」が書かれている。

1972年から米スタンフォード研究所で研究が始まった「遠隔透視」について書かれた本の邦訳は『サイキック・スパイ―米軍遠隔透視部隊極秘計画』(扶桑社ノンフィクション)]

ドラッグの実験:

これも事実だ。

前線の兵士たちは、[濃縮された]液体大麻からLSDまで、あらゆる薬物を――場合によっては、それと知らされずに――投与されていた。

研究者らは、軍人たちが「目に見えないさまざまな人と、2、3日間にもわたって会話を続け」たりするのを目撃している。[米陸軍がLSDなどの幻覚誘発薬を使って行なった『エッジウッド実験』などを紹介する日本語版記事はこちら]
ヒッピー軍隊:



実在の人物である元陸軍中佐のJim Channon氏はニューエイジ思想に深く傾倒し、きわめてオルタナティブな戦争観を米軍にもたらした――例えば、軍隊が花や、[子羊などの]平和的なイメージの動物を抱えて戦場に赴くという『第一地球大隊』(First Earth Battalion)などだ。

映画では、Channon氏に当たる役柄[役名Bill Django]をJeff Bridgesが演じている。Channon氏の考案した『第一地球大隊』は、映画では『New Earth Army』の名で登場するが、その理念は同じだ。映画の中でNew Earth Armyのマニュアルに使われている図版の多くは、Channon氏による実際のマニュアルからそのまま引用されている。[Wikipediaによると、瞑想や指圧や「地球への祈り」などを推奨し、7つの行動指針を頭文字をとって「SAMURAI」とまとめた]

東洋思想やオルタナティブなライフスタイルへの米軍の関心は、今ふたたび高まっている。ノースカロライナ州のキャンプ・ルジューン海兵隊基地では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の代替療法の1つとして、昔のサムライの鍛錬法に基づいたらしい『Warrior Mind Training』(軍人向け精神トレーニング)を指導している(日本語版記事)。

このほかに米国陸軍も、400万ドルを投じて、「レイキ」と呼ばれる手当て療法や超越瞑想、「生体エネルギー」などの代替療法を研究している。空軍も、戦場での鎮痛法として鍼治療を研究中だ。


画像は別の英文記事より

音を兵器にする:

これも事実だ。

不快な音や同じ曲――たとえば子供向けテレビ番組『Barney & Friends』のテーマ曲[『アルプス一万尺』のメロディー]など――を繰り返すことは、実際に心理的拷問や尋問の技術として用いられてきた。[米軍がグアンタナモ基地で、音楽を繰り返す拷問を行なっていたことを紹介する日本語版記事はこちら]

また、音波で攻撃する音響兵器(日本語版記事)『Low Dispersion Acoustic Projector』(LDAP)もある。Wired.comの記者David Axeは、この音波攻撃をみずから体験して記事(英文記事)にこう書いている。「口うるさい彼女が100人も頭の中にいて、自分に向かって叫んでいるみたいだった」

テレパシーで動物を殺す:


画像は別の英文記事

これはフィクション。今回の映画(と原作本)に描かれている最も奇抜なエピソードが、軍の超能力者らは、見つめるだけでヤギを殺すことすらできる、というものだ。だがJohn Alexander氏でさえ、これは真実ではないと語っている。

もっとも、ヤギは軍事研究において、実験対象としてヒトの代わりにしばしば用いられる動物だ。本来は非殺傷兵器である『Active Denial System』の実験で、ヤギが一瞬にして死んだ、という噂もある。また、特殊作戦軍では、戦場での救急訓練にヤギを用いている――まず(麻酔をしていない)ヤギを撃って、それから治療するというもので、この慣行には根強い批判がある。

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